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第40話 悪女とは、書いていない

Penulis: 花柳響
last update Tanggal publikasi: 2026-08-18 06:01:39

「いい」

 景都はそのまま建物を出た。車の鍵を一度手に取ったが、ポケットへ戻した。私たちは行き先も決めずに歩いた。

「扉の設定は、翌週に直す予定だったんだよね」

「報告にあった」

「どれか一つでも間に合ってたら?」

「事故は起きなかったかもしれない」

 権限設定、雨、警備、残り時間、瀬名自身の判断。『かもしれない』が多すぎて、誰か一人の名前へ変えられない。

 歩道の端で、車が水を跳ねた。「危ない」と景都が言う。私は一歩内側へ避けた。

 誰か一人の名前は、どこにも出てこなかった。

 次に森下が開いたのは、瀬名の契約書だった。

 瀬名の契約書は、拍子抜けするほど普通の書式だった。出演料、拘束日、追加撮影、SNSでの告知回数。ページ下部には彼女の署名があり、どの文字も乱れていない。

 森下が別紙を開く。紙の左端には、何度もファイルから出し入れされた細い跡がついていた。

「追加報酬の対象として、“演出上の役割への協力”が定められています」
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     最初は数日単位の出張。結果が良ければ、現地向け商品の検討範囲を広げる。 部長の説明を聞きながら、私は手帳の秋のページを開いた。 国内の発売準備と重なる週がある。戻った翌日に撮影、三日後には量産前の仕様確認。楽ではない。 それでも、日程を見て最初に浮かんだのは「無理」ではなかった。 嬉しかった。 迷うより先に、行きたいと思った。◇ その夜、景都へ話す。「候補じゃなくなった。来月の地域テスト、中心メンバーで行くことになった」 景都は箸袋を折りかけたまま、すぐには質問しなかった。「最初は何日?」「三日。部長と海外担当が一緒で、現地チームにも入ってもらう」 必要な安全確認を終えてから、景都は少し声を落とした。「行きたい?」「行きたい」 自分でも驚くほど早く答えた。仕事のことだけは、怖さより先に欲しいものが口から出る。 景都の指が止まる。「そこは迷わないんだな」「だって、行きたいから。……景都は嫌?」「やめてほしいとは思わない。ただ、これからもっと遠くへ行く仕事が増えると思うと、嫌だ」 対策も条件も続かなかった。思ったより単純な感情だけが、折りかけの箸袋の上に残った。「今回は三日だよ。その先のことは、まだ何も決まってない」「分かってる。三日でも、嫌なものは嫌だ」 景都は日程も航空券も確認しなかった。代わりに、私の前にある企画書を指す。「現地では、何を確かめたい?」「売り場でのサイズ感と、持ち手の長さ。あとは金具の色。前回と客層も照明も違うから、写真だけでは決めたくないんだ」 話し始めると止まらない。私は資料を開き、三店舗の写真を見せた。「この店は通路が狭いから、小さい方が有利だと思う。でも前回は大きい方が売れた」「理由は」「まだ分からない。だから見たい」 景都が画面を拡大する。「棚の高さ、違うな」「そこも見る」 仕事の話をしている時だけは、先の

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